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2019年12月15日

割れ鍋に綴じ蓋 ―ワレナベニトジブタ― 第11回 過去と向き合う

朝、旅立ち.bmp私は大きく息を吐き出してからゆっくりと顔を上げた。いつしか立ち上がっていた博士が、私の顔を覗きこんで何かを確認したように思えた。博士は無言で軽く頷き、モニター画面を静止画像に切り替えると、私と眼を合わせないようにして静かに語り始めた。「自分が無意識の内に消し去った封印した記憶と、それを埋めるべく自分で作り出した虚構の記憶。自分でさえ忘れていた過去が、何かを切欠に突然呼び覚まされ、全く思いもかけなかった本当の過去、真実を突きつけられたら、ほとんどの方は、当然、大きな衝撃を受けます(本文より)



割れ鍋に綴じ蓋  ―ワレナベニトジブタ― 
第11回 過去と向き合う


 私は大きく息を吐き出してからゆっくりと顔を上げた。いつしか立ち上がっていた博士が、私の顔を覗きこんで何かを確認したように思えた。
 博士は無言で軽く頷き、モニター画面を静止画像に切り替えると、私と眼を合わせないようにして静かに語り始めた。
「自分が無意識の内に消し去った封印した記憶と、それを埋めるべく自分で作り出した虚構の記憶。
 自分でさえ忘れていた過去が、何かを切欠に突然呼び覚まされ、全く思いもかけなかった本当の過去、真実を突きつけられたら、ほとんどの方は、当然、大きな衝撃を受けます。
 それはそうでしょう。今まで全ての価値観の中心になってきたこの自分が、例え無意識下であったとは言え、自分自身を欺き続けていたことを知る訳ですから。
 これから先の自分は、一体何を信じていけばいいのか、いや、こう考えている自分さえ虚構の存在ではないのか。
 突然のこの断罪とも言うべき自らによる自らの告発は、自身を見失なってしまう訳ですから、最悪、自我の崩壊、つまり発狂してしまったとしても、何ら不思議はないはなのずです。しかし、不思議なことなのですが・・・」
 そこまで言って、博士は一息ついたがのだが、私にはその続きである回答が、なぜかはっきりと分かった。
「さ、先ほどの父の表情は、確かに僅かな逡巡はありましたが、私には父が全てを、瞬間的に理解し、受け止め、そして、昇華させたと・・、そんな風に、見えてしまったのです。
 自分を見失ったりすることなど微塵もなく、むしろ、自らの記憶や心に掛けられていた半透明のベールを脱ぎ捨てるその瞬間を、封印したその日から待ち詫びていたかのように、力強く受け止めていたのです」
 博士は、私の言葉に2度ほど力強く頷くと、話を継いだ。
「そうなんです。鈴木さんのお父様もそうでしたが、ほとんどの方々は、まるで、以前からこの日が来ることを知っていたかのように、何らかの儀式を執り行うように平然と、過去の自分と、現在の自分とを、しっかりと繋ぎ合わせて受け止めるのです」
 博士は、モニターの脇の椅子に腰掛けると、モニターに目をやり、話を続けた。
「今回は、車中を見て頂く為、出現率の低いパターンでご覧いただきましたが、実際にあなたが経験した駅のホームでのやり取りはもちろん、他のあらゆるパターンの狂言家出においても、漏れなく、全てのお父様は、あなたを通して本当の自分を見つけています。
 これも推測の域は出ませんが、恐らくお父様は、あなたの家出を知ってすぐ、それに対し何かの不自然さを感じたのではないでしょうか。しかし、その時点ではそれはまだ、漠然とした直感や予感めいたものに過ぎなかったはずです。
 その言い様の無い不自然さが、形を成して現れたのが、駅のホームで不安に押しつぶされそうにして、救いを求めているあなたでした。
 お父様が無意識の内に自身の過去にリンクさせて描いていた、まさに思い通りの光景、あなたを目の当たりにした、そう、あの瞬間なのです」
「そして、父は・・・」
「そうです。思い出したのです。思い出して、瞬時に向き合ったんです。自分の中に隠されていた、いや、無意識とは言え、封じ込むように隠していた自分の過去と。
 お父様は、自分が思い悩み嘆くことよりも、目の前で苦悩し、助けを求めているあなた、自らのDNAを継ぐ者に手を差し伸べ、救う道を選んだのです」
 静止されたモニターを指差して、博士は更に続けた。
「御覧なさい、お父様は、あなたを抱きしめています。朝早く人は少ないとは言え、公衆の面前で21歳にもなる息子をです。あなたのお父様は、よくそんなことをなさる情熱的な方でしたか?」
「い、いえ。どちらかと言え派手なことを嫌う・・、少なくとも人前でこんなことは、とてもしそうもない人です」
「きっとお父様は、あなただけでなく、数十年ぶりに再会した失くしていた過去も一緒に、抱きしめていたんじゃないでしょうか」

第12回「過去を知らされない自分」へつづく




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posted by maruzoh at 16:43| Comment(0) | ◆割れ鍋に綴じ蓋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジャー・ウォブルさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪


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