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2018年06月22日

その7 ココロニア建国史 温かさと冷たさ/こころ王国「まりなさんと王様」

まりなさんと王様.pngこれから私たち仲間が、ここで暮らしていくに当たって、現代社会と全く接点を持たずに生活することは、いろいろな意味で、これは あり得ないことです。ということは、恐らく、このような価値観の衝突による争いは、今後も絶えないのではないのかもしれません。言い換えるなら、これは、「生きる」ということに対しての現代社会と私たち仲間の、イデオロギー闘争ではないかと、私は、そんな風に考えていたのです。(本文より)



こころ王国「まりなさんと王様」 
その7 ココロニア建国史 温かさと冷たさ


「それからの本島との闘いを、私たちは独立戦争と呼んでいますが、もちろん、武器などの暴力を使った争いではありません。しかも当初は、2つの島の争いと言うよりも、本島から私たちへの一方的な誹謗中傷といやがらせばかりでした。
 例えば、私たちが自給自足では不足する食材の買い付けに行っても、いろんな理由をつけて譲ってくれなくなりました。また、私が本島の若奥さんに横恋慕しているだの、村会議員の立場を利用して汚職を働いているだのとの噂が、まことしやかに囁かれたりしました。
 ひどい噂の中には、私たち仲間はカルト教団で、私たちは月夜の晩には生贄を捧げているなんてのもありました。そこまでいくと、ふふふふ、笑ってしまいますな。
 最初は、さすがにショックであり、とても悲しく思いました。しかし、いつまでも私が塞いでいるわけにはいきません。特に食料については、ある程度の自給自足は出来ていましたが、全てと言う訳にはいきませんでしたから、これはもう死活問題です。私たちは 新たに畑を開墾したり、遠方の島からの食料入手ルートを開拓したりして、何とかそれらの嫌がらせに対応していきました。
 そして、半年が経過しました。その年は、村議会議員改選の年に当たっていましたが、公示日を1ヵ月ほど後に控えたある日、本島からの船が2隻、私たちの島にやってきました。船には村長、駐在、漁業組合長ら本島の実力者というべきそうそうたるメンバーが乗っています。実はこの3人は、先程お話しした3人の長老のそれぞれの息子なのです。
 その3人が雁首揃えての登場ですから、一体何があったのか用件質すと、本島の漁師の投網が昨晩盗難に遭ったとのことで、そして、なんと、昨晩、その家の近所で大きな荷物を抱えた私を見かけたという目撃証言があると言うのです。
 駐在が勇んで私たちの船を調べてみると、そこには、ありようはずもない投網が船室の隅に丸められて置かれているではありませんか。
 ご想像通り長老3人の謀略、当然、全くの濡れ衣です。恐らく何者かが島内に忍び込み、こっそりと投網を置いて行ったに違いありません。
 喜色満面の3人は一斉に私に詰め寄り、亡命した夫婦を引き渡しさえすれば今回の件は大目にみてやるが、そうでない場合は、私を逮捕拘留すると言いました。
 また彼らは私に、次の選挙の出馬を断念しろ、とも言いました。私は、いやらしく口元を歪めて、「この件が公になれば、投票する奴もいまいが」と言った彼らの顔を、未だに忘れることができません。人間とは、こうまでさもしくなれるものか、と私は思いましたよ。「1日の猶予を与えるから、仲間とゆっくり相談しろ」と、彼らはそう言って帰っていきました。
 島の仲間は、怒りに打ち震えていました。特に法務大臣などは、難しい法律用語をいくつも並べて、徹底的に争うと息巻いていました。
 でも、夕焼けの中、彼らが帰っていく船の航跡を見つめながら、私は、全く別のことを考えていました。今しがたここで繰り広げられた茶番劇の根本的な原因を。
 私や私の仲間たちは、権力を欲している訳でも、ましてや島の利権が欲しい訳ではありません。でも彼らと長老らは、それが全く理解できないのです。
 彼らは次の村会議員の改選で、私たちが更に台頭することによって、これまでの権力構造が脅かされるのではないかと疑心暗鬼になり、自らの地位と既得権益を守る為に、私たちを潰そうとしています。
 特に背後から指示を与える3人の長老は、過去にしがみついた亡霊とでも言うべき存在です。
 しかし、です。では、彼らだけが権力やお金に特別執着のある、特別な、異常な人たちなのでしょうか?
 私はもう1度、よく考え直してみました。彼らの考え方、権力の構図、謀略や脅迫は、東京、日本、いえ、全世界の現代社会の価値観や構図を、ただ、わかりやすく、単純にしただけであって、文明国と言われる現代社会においては、決して非日常的な特殊なものでは、決してありません。
 ある意味、今の世の中では悲しいことに、私たちより彼らの方が、現代社会のスタンダードに近いのかもしれません。
 これから私たち仲間が、ここで暮らしていくに当たって、現代社会と全く接点を持たずに生活することは、いろいろな意味で、これは あり得ないことです。ということは、恐らく、このような価値観の衝突による争いは、今後も絶えないのではないのかもしれません。
 言い換えるなら、これは、「生きる」ということに対しての現代社会と私たち仲間の、イデオロギー闘争ではないかと、私は、そんな風に考えていたのです。だとしたら、私たちはこの闘いには、絶対に負けるわけにはいかないのです。
 私は、この闘いが、ただの喧嘩や意趣返しでないことをその夜、仲間の一人一人に伝えました。なぜ、私たちがこの島に住むようになったのか。なぜ、私たちがこんなに充実した楽しい日々を送れたのか。なぜ、私たちはあの晩、あんなにも泣けたのか。そして、何よりも、なぜ、私たちは独立を望み、これだけの努力をしてきたのか。それを、よく考えて欲しいと話しました。まりなさん、あなたは、どうしてだと思いますか?」
 王様は、まりなさんに微笑みかけましたが、まりなさんは、考えがまとまらないらしく、困ったように丸蔵くんの方をちらっと見ました。丸蔵くんは、にこにこ笑うばかりです。王様は、同じくやさしい顔つきのまま続けました。
「まりなさん、その答えは、実に簡単なんです。あたたかな心、あたたかな気持ち、それが、たまらなく心地いいからです。
 あたたかくされることも、あたたかくすることも、たまらなく心地いいんです。本当に、本当にただそれだけのことなんです。
 逆に言ってしまえば、私たちは、無味乾燥の現代社会に適応できない、いえ、適応なんかしたくないという意志を持つ人間の集団だということです。
 私は、月に1〜2度、独立の嘆願等の為に東京周辺を訪れますが、来る度に、この街、この国では暮らしていけない、そういう思いが、どんどん募ってしまいます。
 だって、そうじゃありませんか?街を歩く人の速さひとつ取っても、
この街の人と私たちとでは、恐らく倍も違いますよ。大都会の雑踏やターミナルステーション、みんながみんな先を争って交差点を渡る様や、駅の自動改札を半ば駆け足で通り過ぎる様は、私たち島の人間の目から見れば、都会人のほとんどが何者かに取り憑かれてしまったか、文明という狂気に支配されているようにしか映りません。
 彼らは、そんなに急いで、何処に何をしに行くのでしょう。そのスピードにより、何分の時間が短縮できて、その時間は、何に使われるのでしょう。その時間は、本当に有意義に過ごされているのでしょうか?そうでないのなら、なぜ急ぐのでしょう。
 まりなさんならお分かりいただいていると思いますが、私は都会人が歩くただ速度を遅くさえすればいい、と言いたいわけではありません。現代の日本の価値観、文明国の価値観が、歩く速度にまで染み込んでしまっている、と言いたいのです。
 日本という国は、明治の文明開化以来、特に、第二次世界大戦以降は、余りにも急ぎ過ぎてしまったんじゃないでしょうか。国家の再興、発展と進歩の大号令の下(もと)、日本本来の良さをかなぐり捨ててまで生産性を求め、非生産的な行為や非生産的な存在は、価値のないものとみなされ、あるいは疎外され、ひたすら生産性の向上と物質的な豊かさに心血を注ぎ、ゆとりだとか、心の豊かさといった精神的なものは、どこかに置き忘れられてしまいました。効率の良いもの、具体的なものは価値が高く、非生産的で数値で計れないもの、感情に訴えるものは、価値が低いと、切り捨てられてしまう。
 マスコミは、数値としての価値観の最たる視聴率至上主義に陥り、生産性や効率、スピードといった価値観の最大公約数の井戸端会議の場と成り下がりました。結果、視聴者の関心事、つまり商業的生産価値のあるものは何事にも優先され、そのためには、報道の自由という剣を振りかざし、他人の心に土足で踏み入ることも許されてしまう。興味が人道に優先し、スケープゴートされた者や、より弱い者が、標的にされてしまっています。芸のない芸能人たちが人の揚げ足を取り合ったり、暴露や失敗をあげつらって笑うだけの不愉快な番組を「バラエティー」だなんていってるのは、世界中で日本だけですよ。
 正義や理想、夢を声高に叫んだとしても、考えが甘いだとか、現実離れしていると一笑に付される。それが稀に叶ったとすれば、あの人は特別だと英雄視され、一握りの存在として扱われてしまう。与えられるのはステレオタイプの憧れや目標で、本当の意味の理想や夢さえも持つことすら許されていないんです。
 伝統は、価値のないかび臭いものと嘲笑され、一過性の流行という形でしか文化が存在しない。先ほどのバラエティーと伝統芸能を比べれば、わかりやすいですよね。
 そんな価値観の中で作られた流行と言ったら、金銭的な価値で数値化されたり、押し付けられるがごとくマニュアル化された、没個性を通り越した「無個性」なもの、ポップで、チープで、暴力的で単純なもの、つまり、幼稚なんです。
 流行の発信源が、低年齢化しているのは、物質的な繁栄と反比例して、現代社会の精神年齢が、驚くほど幼くなったせいだと、私は思いますよ。
 個人と個人の繋がりはどうかと言うと、共通の話題は、もっぱら生産性と効率、流行といった結局は同一の価値観に根ざしたものですから、コミュニケーションは当然浅薄となり、心のひだ、感情の機微が理解できない人間が増える。ところが驚くことにこの社会では、そういう他人の感情を害してでも成果を上げる人間が、むしろ高い評価を受けているときています。
 コミュニケーションの機会自体は、メールやケイタイの普及で増えてはいるでしょう。それこそ、必要以上に会話はされています。だからこそ、いつでも会話できるからこそ、浅いんです。
 会話はできているけれども、意思の疎通が取れていないんです。その昔、東国の夫が京の妻に宛て詠んだ歌を送りました。数ヶ月に1度、たったの数十文字ですが、現代の会話の数万倍の気持ちが伝わっていたのではないでしょうか。
でも、これは決してまりなさんのような若い世代の方が悪いわけではありません。そりゃあそうでしょう。そういうコミュニケーションの仕方は、無価値なもの、非生産的なものとして、切り捨てられて教育されてきたのですから、やろうったって、できようはずがありません。その私たちの世代が切り捨てたものの責任を、若者に問うたり、糾弾するのはお門違いと言うものです。
 生産性を重視する余りに、価値観が効率、スピードに偏り、本来の大切な部分、あたたかさが切り捨てられていく。結果、社会が商業的で刹那的に、浅薄で幼稚になり、人と人との繋がりが希薄に、つめたくなっていく。これが、高度経済成長以降のニッポンですよ。全くもって、悲しいじゃありませんか。
 そう考えてみると、私たちの島の暮らしと現代社会は、全くの正反対だと思いませんか?先ほど私が言った、現代社会との「イデオロギー闘争」とは、「あたたかさ」と「つめたさ」の闘いなのです」
 王様は、一気にそこまで話すと、悲しげに言いました。
「だからこそ私たちは、自らの存在理由を示す為にも、私たちのやり方で、彼らに勝たなければいけなかったのです」 

その8へ続く




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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
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