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2018年05月25日

その3 2つのライブ/こころ王国「まりなさんと王様」

まりなさんと王様.png晩秋の朝がこんなにも清々しいだなんて、まりなさんは今まで一度だって感じたことはありませんでした。透きとおった朝の光に、空気まで輝いているようです。いつもなら、魔法がかかったように、なかなかそこから出られないはずのベッドだって、今日なら、すすいのすいです。ついに、この日がやってきました。言わずと知れた、HART LANDのライブの当日です。(本文より)



こころ王国「まりなさんと王様」 

その3 2つのライブ


 晩秋の朝がこんなにも清々しいだなんて、まりなさんは今まで一度だって感じたことはありませんでした。
 透きとおった朝の光に、空気まで輝いているようです。
 いつもなら、魔法がかかったように、なかなかそこから出られないはずのベッドだって、今日なら、すすいのすいです。
 ついに、この日がやってきました。
 言わずと知れた、HART LANDのライブの当日です。
 不思議なもので、昨日まであんなに気になっていた王様たちのことは、もう頭の片隅に追いやられてしまって、今は、上手い具合にライブに向けて集中できています。
(よし、がんばろっ!)
 シャワーを浴びて、ブランチを終えたまりなさんは、ダンテBARのオードブルを作るお手伝いの時間より随分と早くアパートを後にしました。
 嬉しくって、待ち遠しくって、部屋の中で踊りだしたくなってしまうようなドキドキを、どうしてもまりなさんは抑えきれなかったんです。

「どうだい!この芸術的なチーズの切り方、これからは、マスターじゃなくてシェフとでも呼んでもらおうかな」
 奥さんや妹さんを前に、有頂天のマスターのはしゃいだ声が、午後の傾きかけた日差しが照らすダンテBARに響いています。
 テーブルの上には、スモークサーモンやキャビアのオードブルや色とりどりのサンドイッチが、綺麗に盛り付けられ始めました。何だかとても高そうなシャンパンまで用意してあります。
 こちらのライブも、会場まで2時間を切りました。
 いつも真ん中にあるピアノは奥の壁際に。いつもは無いドラムセットがその脇に組まれています。きっと、ベースの白石さんが、1番手前でしょう。
 ピアノの後ろ、レンガの壁には、“FABULOUS” FREE BIRDS という文字が、マスターの芸術的なセンスにより、白いスプレーで描かれています。
 客席も、レンタルで揃えたのでしょう。随分と増えたアンティーク調のテーブルと椅子が、狭い店内に上手い具合に収まっています。
 いつにも増して饒舌で、笑顔の止まらないマスターが、パンパンと手を叩きながら言います。
「さあ、会場まであと1時間半ちょっと、開演まで2時間半だよ!口を動かさずに、手を動かそう!」
 自分のことを棚にあげたマスターの言葉に、まりなさんや奥さんが笑いながら反論していたその時です。お店のピンク電話がけたたましく鳴りました。
「はいはい、お待ちくださ〜い」
 マスターが電話口に急ぎます。
「はい、ダンテBARです。あっ、どうも白石さん。準備はばっちりですよ。
そろそろ、リハーサルですよね。えっ? 吉田さんが? えっ? ええ・・・」
 受話器を耳にしたままのマスターはそう言ったきり、ぼんやりとピアノを見つめて、口をつぐんでしまいました。
 マスターはしばらくの間、「ええ」だとか、「はあ」だとか、受話器に向かって気の無いような返事を続けていましたが、ゴホンと大きく咳払いをした後、大きな声で言いました。
「お任せください。1時間、いえ30分少々開演の時間を遅らせましょう。私に秘策があります。それだけの時間をいただければ、なんとかしてみせましょう。いえいえ、大丈夫ですとも、大船に乗ったつもりでいてください」
 マスターは、「大丈夫」という言葉をあと3回ほど繰り返し、電話を切って振り向きました。
 そして、その言葉とは裏腹に、大きな溜め息を一つ吐きました。
「はあぁぁぁ・・・」
 何があったというのでしょう。
 誰もが、マスターの顔を見つめます。
「FREE BIRDSのピアノの吉田さん、待ち合わせ場所に向かう途中にバイクでこけて、左手の小指、骨折だって」
「ええーっ?じゃ、じゃあ、今日のライブ、どうなっちゃうのよ」
 マスターの奥さんの金切り声が、店内に響きました。
 まりなさんは、妹さんと顔を見合わせて、そのまま固まってしまいました。
「そうなんだよ。このライブは、千載一遇のチャンスだと思ったものだから、この日に備えて俺は、儲けは度外視して、いろいろ取り揃えた。ワインも、シャンパンも、キャビアまでも、借金までしてね。だから、ライブが開けなきゃ、キャンセル料を貰ったところで、とんでもない大赤字だ。それどころか、借金の返済のことを考えたら、溜まってる家賃や酒屋への支払いもできやしない。このままじゃあ、年を越せるかどうか・・・」
「あ、あんた、どうする気なのよ。家には、まだ中学生の子供がいるのよ。あんたのジャズ道楽で家族を路頭に迷わせる気なの?」
 奥さんは濡れ布巾を握りしめたままマスターに詰め寄ります。
「まあまあ、落ち着けよ。俺もさっき吉田さんの事故の話を聞いたときには、正直、心臓が止まるかと思ったよ」
 そこでふうっと息をついたマスターは続けました。
「でも、逆に思ったんだ。これは、またとないチャンスじゃないかってね」
「チャンス・・・?」
 奥さんの険しい表情が、ちょっとだけ緩みました。
 そして、布巾を握りしめていた自分に気づいて、慌ててテーブルにそれを返すと、話の続きをせがむようにマスターの顔を覗き込みました。
「幸い白石さんたちは、結成1周年の今日、是が非でもライブを演りたがっている。さっきの電話からも、それはひしひしと伝わってきた。そこで俺は、白石さんたちに恩を売れないかと考えたんだ」
 マスターの眼が作戦参謀のように光りました。
「だって、吉田さんは指を骨折してるんでしょ?ドラムスとベースだけで、何を演るってのよ・・・」
 ところがどっこいとでも言いたげに、人差し指を左右に振ったマスターが、にやりと笑います。
「吉田さんの怪我したのは、左手の小指。吉田さんには、右手だけで弾いてもらう。そして、まりなちゃんくらいのピアノの腕前があれば、スタンダードナンバーの左手のパートを合わせることは、FREE BIRDSくらいの素人バンドレベルなら、それほど難しいことじゃないはずだ」
「えっ、だって・・・」
 まりなさんは、思わず口をついてでてしまいそうな言葉をやっとの思いで飲み込みました。
 今日のHART LANDへのライブ出演のことは、誰にも話していないのですから。
「痛みに耐えながらも、演奏する吉田さんと、それを横から必死にサポートするまりなちゃん。そして、吉田さんを気遣いながらものっていく他のメンバー。4人とも、玉のような汗だ。なんとか逆境を乗り越えて辿り着いたラストナンバーでは、感動の拍手と、涙と、スタンディングオベーション!そして、以降ダンテBARは、感動した関係者のみなさん、白石さんたちの紹介のお客さん、あるいは、評判を聞きつけたお客さんで、連日大盛況、という訳だ。いやあ、災い転じて福と為すを地でいくサクセスストーリーだね。わははははははは・・・」
 マスターは、自分の描いたストーリーに完全に陶酔してしまい、奥さんの手を取ってチークダンスまで始める始末です。
 おどけてチークダンスをやめないマスターに奥さんも、「もう、馬鹿ねえ」と苦笑をし始めました。妹さんが「ヒューヒュー」と囃し立てています。

 そんな中、まりなさんは1人、深く、何度も考えを巡らせていました。
 HART LANDのライブのことももちろんそうですが、ダンテBARの経営が、まさかそんなにまで悪いとは思ってもいなかったのです。
 夢の第一歩になるかも知れないHART LANDのライブはとても大事でしたが、まりなさんは今日のライブは諦めようと思いました。
 もし自分がHART LANDのライブを選んだりしたら、一筋の光明をやっとのことで見つけたマスターたちを、また奈落の底に落とすことになるであろうことは、まりなさんにだって充分わかっています。
 でも正直、悔いが無いわけではありません。開演直前のドタキャンでステージに穴をあけてしまう訳ですから、信用はがた落ちです。当然、今後の出演にだって大きく影響するはず、いえ、もう2度と声をかけられるなんてことはないに決まっています。
 何度も何度も考えた末、まりなさんは、まずは事実をマスターに思い切って全て言うことにしました。
 そして、全てを打ち明けた上で、マスターが望むならやっぱりHART LANDのライブは断ろうと思いました。
 心臓が早鐘を打つようにドキドキしています。

「マ、マスター。じ、実は私、今日、これからライブがあるんですが・・・」
 まりなさんがそこまで言うと、マスターは眼をまん丸にして振り返りました。
「こ、これからライブって・・・」
 そして、それまで握っていた奥さんの手を振りほどくと、まるで信じられないといった面持ちで、これから肝心な話をしようとしているまりなさんの両肩を掴んでこう言いました。
「いやいや、みなまで話さなくていい。うん、いいんだ」
「あ・・・」
 まりなさんの喉まで出かかっていた言葉が、押し戻されてしまいました。
「まりなちゃん、よ〜く考えてね、考えるんだ。いいかい、あなたの勤め先が、今日、潰れてしまうかもしれないんだよ。そしたら、まりなちゃんだって、失業者だ。ご飯も食べられなきゃ、家賃も払えなくなってしまう。でも、でもですよ。あなたがピアノを弾くことで、それは回避できる。これ以上、大事な用事なんて、世の中にある訳ないでしょ?」
「あ、あの・・・」
 あまりのマスターの勢いに押されてしまったまりなさんでしたが、気を取り直して話をしようとすると、マスターはまりなさんの顔を覗き込むようにして遮ると、更に続けるのでした。
「いやいやいや、まりなちゃんはことの重大さが分かってないんだ。この店が潰れたら、僕らも応援してるあなたの夢、ジャズシンガーになるって夢だって、ここで潰(つい)えてしまうかもしれないんだよ。いったい、これから何処でライブがあるって言うんだい?」
 マスターの言葉で、まりなさんの心臓はもう破裂しそうです。でも、まりなさんは真っ直ぐにマスターの眼を見据えると、勇気を振り絞って言いました。
「HART LANDでライブがあるんです。今日の夜、1ステージ分だけ空きができたんで、店長さんに誘っていただいたんです」
 マスターの眼が、またまた、まん丸になりました。
 そして、まん丸の眼のままゆっくりと俯いたマスターは、まりなさんの肩をポンと押すようにして眼を閉じると、近くの椅子に乱暴に腰を下ろしました。
 俯いた頭を左右に3度ほど振ったマスターは、クシャクシャの煙草に百円ライターで火をつけると、大きく煙を吸い込んで、そのまま「ふーっ」と床に向かって紫煙を吐き出しました。
 すべてがスローモーションのようにゆっくりでした。
 床の一点を見つめたまま、マスターは言いました。
「さんざん面倒みてやった挙句の果てが、へんっ、これか?全く、いやんなっちゃうよなぁ。ちょっと大きいとこから声掛けられりゃ、ホイホイついてく。ああ、やだやだ、義理と人情も地に落ちたもんだよ・・・」
 ようやく顔を上げたマスターの表情は、これまでのまりなさんが知っていたマスターとはまるで別人のような、冷たいものでした。
「そ、そんな・・・」
 まりなさんの声をまた遮って、マスターが続けます。
「そんなも、こんなもないでしょうが。だって今日は、HART LANDのトライアウトライブの日じゃないの。俺だって一応、商売敵の動向は、掴んでるつもりだよ」
 まりなさんは、トライアウトライブというのが分からなかったものですから、答えることもできずにいましたが、
「すらっとぼけるのも良い加減にしてくれよ。出演者が知らない訳なんてないだろ?これからの準レギュラーを決めるために5組が30分ずつやる、月1回の新人査定ライブだよ。そりゃ、大事な用のはずだわ」
 マスターの説明を聞いて、まりなさんは、はっとしました。
 確かに、HART LANDの店長さんから持ち時間は30分と伝えられていました。
 でも、まりなさんは今日のライブが、これからの準レギュラーを決める為の新人査定ライブだなんて、そんなこと、本当にこれっぽっちも聞いてはいなかったのです。
 11月の終わりの太陽は、あっという間にビルの影に落ちて、ダンテBARは、すっかり暗くなってしまいました。
 そこに、投げやりな態度で煙草をふかすマスターの声が響きます。
「ママ、聞いたかい?そら恐ろしいねえ。この自分本位のまりなさんは、どうやら自分の夢を叶える為だったら他人様の生き死になんてどうだっていいらしいや。こうなったら俺たち親子3人路頭に迷って、一生この売れっ子ジャズシンガーを敵と恨んで生きるとするか?」
 あまりにも酷い変わり様と、一方的な言い分に、まりなさんの頭は、すっかり混乱してしてしまい、思っていたことを何一つ言えないまま立ち尽くしていました。
 くわえていたタバコをぺっと床に吐き出したマスターは、荒々しくそれを踏みつけてもみ消しました。
「飼い犬に手を噛まれるってのは、こういうことを言うのかね?いや、恩を仇で返すって方が正確かも知れんな。信じられんよ。まあ、どうでもいいや、どっちみち俺らは、ジ・エンド、もうお仕舞いなんだから」
 本当にこれが、あの陽気でやさしかったマスターなのでしょうか。
 そう考えていると、まりなさんの目から、みるみるうちに大粒の涙が溢れてきました。
「もう、いいよ。泣いたふりなんてしてないで早く行きゃいいじゃない。大事な大事なライブへ。リハとかだってあんだろ?俺たちもさ、家に帰って夜逃げの準備、いや、首でも吊る準備をするからさ。ひゃははははは・・・」
 まりなさんが流れる涙に両手で顔を覆った、その時でした。
 コンコンッ!
 ひどく澄み切った音のノックがあったかと思うと、黒服の、そう、映画に出てくる執事そのものの男性が、ドアをサッと開けるやお店に入ってきました。
 そして、誰かをうやうやしく招きいれます。
 その後ろから覗く恰幅のいい紳士。金ぴかの王冠がキラリと光りました。
「お取り込みのところ、失礼しますぞ」
 その場にいる者全てを振向かせる威厳のある口調の主は、紛れもなく、あの霧雨の日の王様、その人でした。
 王様は、あの日とちっとも変わらない重厚な佇まいを醸し出しています。
「お久しぶりですな。まりなさんもマスターも、その節は世話になりました」
 王様の姿を見るやマスターは、先ほどまでの意地悪そうな表情は何処へやら、満面に商業的な笑みという笑みを湛えて、もみ手にすり足で4歩、5歩と歩み出てくるではありませんか。
「いやあ、いやいや。お世話になったのは、こちらのほうでございます、王様。知らぬとはいえ、失礼の段の数々、穴があったら入りたいくらいでございます」
 本当にこれが、先ほどのマスターと同じ人なのでしょうか。
 ここまでの早変わりは、もう、二重人格と言って良いでしょう。
 でも、王様はそんなマスターに目もくれずに、
「挨拶はさておき、まりなさん!」
 と、まりなさんに向かって言いました。
 まりなさんは、雷に打たれたかのように、どきりとしました。
「丸蔵からライブのお話を聞いて、私が遠路はるばるココロニアから出てきたというのに、あなたは会場にいないではありませんか。もしやと思い、こちらに使いの者を向かわせたら、案の定、トラブルに巻き込まれているという」
 まりなさんがあっけに取られたまま黙ったままでいると、王様は、さらに続けました。
「これまでの事情は、失礼ながら使いの者から聞かせて頂きました。さあ、まりなさん、あなたはお行きなさい。このお店に関しては、私に任せておきなさい。決して悪いようにはしませんから」
 まりなさんは、目を大きく見開いたまま、大きくうなずきましたが、それでも、なぜかその場から駆け出していくことができませんでした。
 その時です。
「まりなさん、向こうのライブ、これ以上はもう、待ってもらえないんだよ!」
 ドア付近で聞き覚えのある若い男の叫び声がしました。
 まりなさんがはっとして視線を移すと、
「ま、丸蔵さん・・・」
 表にタクシーを待たせた丸蔵くんが、真っ赤な顔をして立っているではありませんか。
 まりなさんは、まるで丸蔵くんのその言葉で、マスターにかけられた呪いが解けたかのように駆け出しました。
 そして、あっという間に2人は、タクシーに乗り込み走り去っていきました。
「お、王様ぁ、ウチはどうなっちゃうんでしょうか?先ほど、私に任せろ、悪いようにしない・・なんて、そんな風に聞こえたんですが。まあ、下衆な話なんですが、当方としましてはココロニア金貨の5〜6枚でもいただければ、誠にありがたいのですが」
 マスターがもみ手をしながら、笑顔で更に王様に近づきました。
 でも、マスターの眼は、ずるそうに光っていてちっとも笑っていません。
「いえ、それには及びません。やりましょう、FREE BIRDSのライブを。執事長、文部大臣を呼びなさい」
 マスターが、心の中でチッと舌打ちをしたのを、王様は見逃しませんでした。そして王様は、マスターを正面から見つめこう言ったのです。
「マスター、あなたは、ちと、悲しいですな」
 王様の心の隅まで見透かしたような言葉に、マスターは苦虫を噛み潰したような面持で所在なくしていましたが、文部大臣が指慣らしに奏で始めたピアノの音色を聴くや、その衝撃にそんなことも忘れてしまいました。
 マスターは、かれこれ20年以上もジャズを聴いていますが、こんなに正確であるにも拘らず、実に感情豊かに、まるで叙情豊かな詩を朗読するようにピアノを弾く人を、後にも先にも、1人だって見たことがなかったのです。

その4 温かな一族に続く




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とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
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